明け空の展望台

ヤフブロより移転。ぷよの二次創作ゲームを作る者です。よろしくお願いいたします。

相合傘で一緒に シグアミ


梅雨のシグアミ。一応シグのお誕生日記念でもあるけれど中身はいつのシグアミです。

当たり前のように二人が付き合ってるのでご注意を。





とある雨降る放課後のお話。

金髪の小柄な少女、アミティは学校の出入り口前に一人ぽつんと佇んでいた。

目線の先には雨が降り注ぐ灰色の空。はぁ、とため息を一つつく。

たまに通り過ぎていくクラスメイトを見送りながら、やまない雨を見つめ続ける。


彼女がここで佇んでいるのには理由が二つあった。

一つは傘を持ってきていなかったこと。

時々クラスメイトの男子が猛ダッシュで雨の中を突っ切っていく様子が見られるが、

ノースリーブの薄着が夏の基本衣装である彼女にとっては雨は腕から体を冷やしてしまう大敵。

他の人と同じように雨の中に無防備に飛び込むわけにもいかないのだ。

そしてもう一つの理由はというと。


「シグ!」

「ん、アミティ」


通りかかった蒼色の少年を呼び止める。彼を待っていたからだった。


「あのねシグ、ちょっと用事があるんだけど……」

「用事?うーん、ちょっと森に行くところだから、それからでいい?」

「全然大丈夫!えっとね、それでね…………」


恥ずかしくて、ちょっと言い出せない一言。勇気を振り絞って、その言葉を吐き出す。


「シグの傘、一緒に入っていいかな?」


アミティのこわばった表情から出た言葉にシグは一時びっくりしていたようだったが、すぐににへらと笑って


「どうぞ」


と、傘を差すと同時にアミティをその下に寄せ入れた。

一人用の蒼傘に、年頃の少年少女が二人。

そんなに大きくない傘だから、もちろん肌がぴったり重なりあう。

暖かい、もしくは冷たい、そんな相手の体温が、くすぐったくてたまらない。

そんな一瞬の沈黙さえも恥ずかしくなってしまった二人は、顔が熱くなるのを誤魔化しながら

「「行こっか」」と同じ言葉を発し、その重なった言葉に同じ笑顔を零した。









「ねえ、そういえばどうして今日森に来たの?」

相合傘特有のぴったりとした距離感にもようやく慣れたところで森にたどり着き、

今更ながらと思いつつアミティはシグに問う。

「どうして、って?」

「ほら、雨の日だとムシはいないでしょ?」


「確かに、いつも見るムシは大体見ない。けど雨の日は雨の日で別のムシが居る」

「例えば?」

「例えば……そうだ、これとか」


シグは辺りを数秒見渡した後、一つの植物の葉の上を指差した。


「……かたつむり?」

「そう」

「かたつむりって、ムシなの?」

「たぶん」

「たぶん……?」

「何がムシなのかっていうわかりやすい決まりはないから、たぶんとしか言えない」


へぇ~、とアミティは感嘆の声をこぼす。

言われてみればそうだ、確かに学校では「昆虫」とは足が6本で頭と胸と身体に分かれている生き物だ、

ということは習ってはいるが、よくよく考えると「虫」が何かということについては習っていない。


「じゃあシグはどんなのがムシだと思う?」

「うーん…………?」


アミティのそんな素朴な問にシグは首を傾げたまま深く頭を悩ませ、動かなくなってしまった。

アミティが身体を揺さぶったり目の前で手を振ったりしてもまるで反応がなく

そのまま悩むこと数十秒、悩み悩んだ末にようやく口から出た答えは


「ムシっぽいもの……?」


そんな曖昧なものだった。どうやら彼にとっても手に余る問題だったらしい。


「シグでもわからないことがあるんだ?」

とアミティが聞くと、シグは

「さすがに誰もわからないことはわからない」

と苦笑いした。











それから森中をしばらく歩き回ったが見つかるムシは大体カタツムリばかり。

けれど特にシグは退屈することもなくそれらを眺めていた。

彼曰く「ぐるぐる模様がちょっとずつ違うのが面白いから」とのこと。

初めはシグの様子を眺めるだけだったアミティも、

気づけばシグと一緒になってカタツムリ鑑賞を楽しんでいた。

次はどんな模様のカタツムリが見つかるかなと談笑している最中に、

二人は道端に珍しいものを発見する。それは小さくて黄色い、花びらのような何かだった。


「ねえシグ、あれ何だろう?黄色い花びら……かな?」

「……あれ、もしかして」


シグは気づくや否やアミティに傘を押し付け雨も気にせずそこへ走り出し、その何かを手ですくった。

「濡れちゃうよー」と遅れて追いついたアミティに、シグはその手の中にあるものを見せる。


「!これって……」

「ちょうちょ」

「この子、大丈夫かな……?」


二人が見つけた蝶は雨に打たれてすっかり弱りきっていた。

アミティは心配そうに蝶を見つめている。


「んん~……」


シグが水気を払い、真剣な目つきで注意深く観察してみると羽が少し動いた。まだ生きてはいるらしい。


「まだ生きてる、けど相当弱ってる」

「でも、このままだと……多分……」

「助からない」

「そうだよね……ねえシグ!この子、なんとか助けてあげられないかな?
 例えば洞窟の中に置いてあげたり、とか……」

「洞窟だと蜘蛛に食べられちゃうかも」

「ほんとだ!?それじゃあ、えっと、どうしよう……どこか乾いててちょうちょが休めそうなところは……」


焦りながら案を巡らせるアミティ。けれどシグは大丈夫、と諭すと、

「こんなこともあろうかと」

と言いながら鞄から虫かごを取り出した。

丁寧に乾いた葉と枝まで入っており、これなら水気も全てすぐに払えそうだ。


「これで大丈夫だと思う」

「よかったぁ……!あたしひとりじゃどうしようもなかったよ。ありがとう、シグ!」

「どういたしまして」


虫かごの中の蝶の無事を確認し、二人はほっと一息をつく。

僅かに羽を動かす蝶の様子を眺めながら、アミティは一つの疑問を抱く。


「ねえ、シグってムシ取りのとき、捕まえたらいつもすぐ逃がすよね?」

「うん」

「なのに虫かごを持って来てるのって……弱ったムシを入れてあげるためだったの?」

「ふふっ、当たりー」

「もしかして、雨の日にも森に来るのも……?」

「それはかたつむりのついで。でも、半分当たりかも」

「やっぱりそうだったんだ!シグってムシのお医者さんみたいだね!」

「ムシのお医者さん……それ、とてもいい」


自分の小さな秘密を知ってもらえたのが相当嬉しかったらしく、

シグは髪の毛アンテナをひょこひょこ揺らしながらアミティの言葉に喜んでいた。


「えへへっ、シグってムシにはとっても優しいよね。あたし、シグのそんな優しいところが大好きなんだ。」


しかし続けて出てきたアミティのそんな何気ない一言はさすがに恥ずかしかったらしく、

アンテナの動きをピタリと止め、顔を赤くしてそのまま俯いてしまった。

シグのそんな様子に一時はきょとんと首を傾げたアミティだったが、

数秒遅れて自分の発言に気がつき、同じように真っ赤になって俯いてしまった。


「……アミティ、はんそく」

「ごめんなさーい……」











気を紛らわせにカタツムリ鑑賞に浸ること数十分。

気ままに探索をしているうちに、視界を覆う木々の本数がだんだんと少なくなっていき、

ついには開けたところへ到着した。少し遠く見えるのは見慣れた街の光景。

どうやら出口まで辿りついてしまったようだ。


「もう出口まで着いちゃったね……来た道引き返す?」

ちょっと残念そうにアミティが問うと、

「大体の部分は見て回ったし、このまま帰っちゃおう」

シグは笑顔で答えた。

「そうなの?あたしは森の中とか詳しくないからよくわからないけど……」

「安全な道は殆ど通ったし、それに……ほら、向こう」


シグの指差す先の空には、灰色の雲の隙間から、蒼と紅の綺麗な色彩がこちらが覗き込んでいた。

どうやら時間的にも切り上げ時だったらしい。


「綺麗な夕暮れだね……」


アミティは雨の中から覗けるそんな景色に、すっかり魅了されたようだった。


「もう夜が近いから、森からは出ないと」

「今何時だっけ?」

「えーっと。もう六時になる」

「うそ!?……ほーんと、楽しい時間ってあっという間だね」

「楽しかったのか。それならよかった」


一緒のことで一緒に楽しめたのが相当嬉しかったらしく、シグからは笑顔が零れていた。


「よかったらまたあたしも連れて行ってね」

「もちろん。……そうだ」


何かを思い出したらしくシグがぽんと手を叩く。


「用事、聞くんだった」

「用事?……あっ、そうだった!」


もともとアミティがシグについてきた理由は傘に入れてもらうため以外にもう一つ用事があったからだ。

森へ行った後にアミティの用事を聞く。

その約束を二人ともすっかり忘れていたらしく、今になって思い出す。


「えっとね……シグ、今日は何の日か、知ってる?」

「今日……?虫取りの日?」

「違うよ!」


鈍いボケに鋭くツッコミを入れながら、アミティはポケットから小さな箱を取り出す。

緊張を紛らわすかのように深呼吸を一つした後、満面の笑みを作ってそれを差し出した。

「シグ、ハッピーバースデー!!」

もちろん、お祝いの言葉と一緒に。

「!……そうか、今日だったのか」

「6月16日、シグの誕生日だよね!!」

「じゃあ、この箱はやっぱり」

「そう、プレゼントだよ!シグが喜ぶものかはわからないけど……とりあえず開けてみて。」


言われるがままに小箱を開けると、

中には透き通った、蒼い蝶が乗ったようなデザインの

小さな可愛らしいパッチン型の髪留めが入っていた。


「……髪飾り?」

「ほんとはかっこいいカブトムシのバッジとかがあれば良かったんだけど……
 あたしがお店で探した中ではこれしかなかったんだ。」


アミティは自分の選んだプレゼントに自信がないのか、少し俯きながらシグに話す。


「男の子が着けるものじゃないのはわかってるし、もし気に入らないなら……」

「ううん、これがいい」


そんな不安そうなアミティに対し、シグはとても嬉しそうだった。


「これがいいの?」

「アミティのくれたものだから。それにちょうちょも大好きだし、
 なにより好きな時に頭にちょうちょがずっとくっついてくれるのは、とっても嬉しい」


そう言いながらシグが髪留めを髪の横側につけてみると

女の子用のアクセサリーでありながらもその違和感はほとんどなく、

髪飾り、というよりは本物の蒼い蝶がシグに止まっているかのようだった。

シグはすぐそこの水たまりに映る自分の姿を見て、


「似合ってる」


と満足げな笑顔。その様子にアミティは安堵と喜びの混じった溜め息を漏らす。


「そっか、それならよかったよ。可愛いタイプのやつだったから喜んでくれるかわからなくて……」

「可愛くても、ムシはムシだから。
 それに、アミティからもらうならカブトムシとかクワガタよりもちょうちょが一番嬉しい」

「ちょうちょが……?かっこいいカブトムシよりも?」


意外だと思いつつもアミティが問うと、

シグは「アミティがずっとくっついてくれてるみたいだから」という不思議な答えを返す。


「あたしがくっついてるみたい……?あたし、そんなにちょうちょに似てるのかなぁ?」

「すごくよく似てる。ひらひらしてて、可愛いでしょ。それにとっても」

「ストップ!シグストップ!!」

「?」


唐突に始まったちょうちょ語り。彼女にとってはあまりに直球で無慈悲な褒め殺し、に、

慌ててアミティは真っ赤になってシグの口を手で塞ぐ。

シグはその理由に気づかず、困惑しながらただもごもごと声にならない音を出していた。


しばらくしてシグの口が止まったのを確認し、ようやくアミティが手をシグの口から離す。


「……?ちょうちょに似てるって言ったの、嫌だった?」


どうやらシグは全く気がついてないようだ。顔にたまった熱がおさまらないまま、アミティは説明する。


「嫌とかじゃ全然ないんだけど、その、あんまり急にそんなこと言われると、恥ずかしいから……」


アミティの懸命な説明にようやく納得したらしく、シグは「なるほど」と呟き、


「わかった、次からは急には言わないようにする」

「そういう問題じゃないからー!」


アミティの返答にくすくすと悪戯っ子のように笑った。今度は明らかにわざとのようだ。


「もう、シグ~……こうしてる間にもちょっと空が暗くなってきた気がするし、早く帰ろ」


ペースを乱されてかなわないと判断したのか、

アミティは火照りっ放しの頬をぺちぺちと叩き、話題を変えてシグを急かす。


「アミティはこれからまっすぐ帰るの?」

「あたしはクルークのところまでちょっと用事」

「クルークのところ?……そうか、アレのお誕生日祝いか」


アレというのはもちろんクルークの本に入っているシグの片割れのような魂のこと。

偶然か必然か、シグと同じ誕生日なのだ。

アミティは彼にもこれから誕生日祝いのプレゼントをあげに行くらしい。


「そうだよ!シグも一緒にお祝いする?」

そんなアミティの誘いに「もちろん」とシグは快諾した。

そして迷いの無いシグの返事に、

「それじゃあ一緒に行こっか!」とアミティはいつもの満面の笑みを見せた。



「ところでそのポケットに入れてあるプレゼントって何が入ってるの」

「こっちは紅い蝶のしおりだよ!気に入ってくれるといいなぁ~」

「アミティのプレゼントだから、きっと気に入ってくれる」



いつしかすっかり雨は上がり、虹のかかった空へ、二人の楽しい話し声がこだまする。

相合傘はそのままに、相も変わらずぴったりとくっついたまま、同じ歩幅で。

二人はマイペースに笑顔を咲かせながら、彼の待つ家へと歩を進めていった。





おしまい