「ただいま……」
と帰ってきたアミティは疲労の溢れた表情をしていた。
魔導師のお仕事で何か苦労があったのか、
それともよくないことがあったのか。
いずれにしろ、こういう時にやることは決まっている。
おいでおいでと手招き。ふらふらと無意識気味に歩を進めるアミティを
ソファまで誘導し、倒れこむ彼女をぎゅっと抱きとめる。
「おかえり」
よしよしと背や髪を撫でると、翡翠の瞳から二つ雫がこぼれた。
今だけは、笑顔じゃなくても良い時間。
人はずっと晴れた空のように笑顔ではいられない。
たまにはこうして疲れもつらさも全部、全部雨にして流してしまわないと。
しばらくそうしてじっとしていると、
「ごめんね、もっとシグの前では笑顔で居たいのに」
そうアミティが呟いた。
「どうして謝るの」
「だって、一緒に居る時はシグが好きなあたしで居たかったから」
アミティはどこまでもあたたかいから、
たまにそうやって、自分をつめたくしようとしちゃう。
そういうところもすきだけど、でも、ちょっとくるしい。
「笑顔じゃないアミティも好きなのに」
心にしまうつもりだった言葉が勝手に飛び出る。
「だって、笑顔だけが全部じゃない。たまに怒ったり、悩んだり、泣いたり。そんなアミティの全部がまぶしくて、好きになっちゃったんだから。笑顔だけじゃなくて、苦しい気持ちも、泣きたい気持ちも、いろんなものを見せてくれたほうが嬉しい」
「シグ……?」
こぼれた言葉の言い訳をしようとしたら、
自分ですらびっくりするくらいに次々と気持ちが飛び出してしまった。
きょとんとした視線。
もしかしたらちょっと、恥ずかしいことを言っちゃったのかもしれない。
「ご飯、食べよう」
まだ冷めてないから、と目や話をそらす。
「……うん!」
一呼吸おいて返ってきた、元気なアミティのいつも通りの返事。
ちらっと目を合わせると瞳から飛んで行った涙が輝いていて。
虹のかかったような綺麗な笑顔が花咲いていた。