明け空の展望台

ヤフブロより移転。ぷよの二次創作ゲームを作る者です。よろしくお願いいたします。

打ち解ける時は ゼノブレ


捧げ物。

ダンバンさんとメリアちゃんのお話を書こうと思ったらなんか話のベクトルが明後日の方へ飛んでいきました。






皆と行動を共にしていると、時々一人置いていかれそうな錯覚に陥ることがある。

それは私が鈍臭いから、というわけではない。少なくともリキと同等以上にはしっかりしているつもりだ。

では何がそれを感じさせているのかというと、それは恐らく。

時の感じ方。


ハイエンターはホムスやノポンの5倍近くの寿命を持つ。

しかしそれは逆を辿れば、ハイエンターは彼らと比べて5倍鈍く時の流れを感じているということになる。

同じ1年でも、彼らからすれば100のうちの1つであるが、私たちにとっては500のうちの1つ。

私が一歩の時を歩いた頃には、彼らは既に五歩を歩いているのだ。

何気ない時の流れにそれを感じたとき。私は____ふと孤独を感じた。




***




「要はじわじわと先立たれ置いていかれるような感覚……ということか。俺も分からんでもないな」

「え……?」


いつぞやに野営した地にて或る夜に打ち明けてみた、そんなどうしようもない悩み。

駄目で元々のつもりであったが、ホムスの英雄たる彼にはその経験にどうやら心当たりがあったようだ。


「戦場では珍しくない話だったからな」


彼のことだ。幾つも死線を潜り抜け、その中で数多もの別れを経験したのであろう。

いや、“だろう”をいう推測の言葉を使うのは誤りであったか。

実際私も彼らと共にいくつも困難を切り抜けてきた一員なのだから。

語る彼の眼はどこか遠く、次々と過去を映しているように見えた。

苦い出来事も少なからず思い出させてしまっただろうか。


「……そうだったか。悪いことを聞いてしまったな」

「いや、構わんさ。忘れっぱなしでは散っていった仲間も浮かばれないからな。
 それに先立つものを感じることは他にもある。例えば……」


花。そう彼は呟いた。


「僅かな間に芽を出し茎を伸ばし花を咲かせ、そして気が付く頃には散っているものだからな」


彼は花を好きではない、と以前言っていた。

散るものだから、とは言うがその語り草からすると彼は花をよく見ている。

むしろ私よりもしっかりした目で見ているのではないか、と思わされることさえあるものだ。

感心していると「それはともかく」と脱線しかけた話を戻される。


「俺が思うこととしては……メリア。お前が皆と同じ歩幅で歩けていないと思うのならば、
 それはまだ自分の気持ちが打ち解けきっていない証なんだろう」

「そうなのか?そんなつもりはないのだが……」

「ならば手を伸ばすと良い。距離を感じているのなら詰めればいいだけのことさ」

「そんな、このような我侭で皆に迷惑をかけるわけにはいかぬ」

「そうか……ふふっ、お前なら確かにそう考えるか」


反論すると、ダンバンはそう言って笑い出す。

何がおかしいのかわからない私は、ただ困惑して彼の言葉を待っていた。


「そういうところだよ」

「そういう、ってどういう……」

「度々思っていたんだが、メリアは少し遠慮しすぎなんだよ。
 人に気を遣うのは良いことだが、仲間の間でそこまでする必要なんかあるまい」

「皇女として、そのくらいの気遣いは当然であろう?」

「そうか?では逆を聞くが、俺たちの中でお前のことを
 皇女とか、そんな上下関係のあるような目で見ている者は居たか?」

「それは……」

「居ないだろう?輪に入ってしまえば仲間は仲間。あくまで仲の良い一人さ。
 俺だってホムスの英雄とは言われてはいるがフィオルンの前ではただの兄、
 シュルクやラインの前ではただの兄貴分。仲間とか親しいものっていうのはそんなものさ」


なんとも正論だ。打ち解けるというのがどういうものなのか、皆を見れば分かる。

自分が何者であるかなど、自分で気にすることも他者が気にすることもない。

けれど、私はそんな振る舞い方がまだよく分からない。

彼らに出会うまで、皇女としての在り方と共にずっと自分を構成し続けていたのだから。


「まあすぐに打ち解けろ、なんて言われても難しいよな」

「そうだな……対等に人と接することは殆ど初めてに等しいものだから」

「でも、もう足がかりはひとつ掴めてると思うぜ?」

「そうなのか?私にはさっぱり……」


全く無い心当たり。一人ずつ思案してみる。

シュルク、ライン、カルナ、フィオルン、ダンバン、リキ……

リキ…………

リキ?


「よもや、リキのことなどと言うつもりではないだろうな」

「ご名答だ」

「なっ!?」


あまりに予想外の返答に狼狽を隠せない。

あんな接し方で、あんな感じで、良いのだろうか。


「特にリキをもふもふする時のメリアは完全に打ち解けられているじゃないか」

「リキをもふもふするのは……その、特別だ!」

「まあもふもふするのは極論だが、だとしても雰囲気的にはそのくらいで良いんだよ」

「リキをもふもふするように、か……」


あの雰囲気を他の人とも。もこもこふわふわのイメージで、皆と接する……

駄目だ、考えれば考えるほど恥ずかしくて、顔が熱くなっていくのがわかる。

そんな風には到底できるようには思えない……しかし、それでもできるようにならねば。

唸りながらも目を閉じてイメージを膨らませる。まずはリキと接していたときの感覚を思い出さねば。

あたたかくてふわふわで、癒されて少しまどろむような気持ち良さ。

イメージが固まると同時に暖かい柔らかさが重量を持つ。

__ああそうだった、この感覚だ。

やっと分かったと目を開くと、いつの間にやら本物の黄色いもふもふ本人が

私の手の上できょとんとこちらを見ていた。


「呼んだもー?」

「わああああああああ!?」

「メリアちゃんどうしたんだもー!?」

「な、ななななんでもない!なんでもないんだ!」

「も……?」


どうやらイメージを必死で組み立てている最中に偶然通りかかったリキを持ち上げてしまっていたようだ。

しまいには動揺のあまりにリキを高く投げ飛ばしてしまい顔がもう燃えるように熱い。

こんな失態などいつ以来であろうか……


「ダンバン、何かあったんだも?」

「まあな。……そうだリキ、また魚を獲ってきてもらえるか?」

「も?わかったもー!今回はメリアちゃんのぶんまで張り切って獲ってくるもー!」


投げ飛ばされた方のリキはそれについては特に気にすることもなく、

流れるようにざばぁ、と大きな音を立てて水面に飛び込む。何をしに来たのだろうか……

とにかく、流石にこのやり方は実践しようにも恥ずかしくて耐えられる気がしない。


「……ダンバン、すまないがやっぱり私には無理だ!」

「まあ、そう早まるなよ。一朝一夕に上手く行くようなら今ごろ悩んでなどないだろう」

「分かってるつもりだが、やはりああいう振舞い方は流石に……」

「それに、何も話すことだけが打ち解けて同じ時を刻む方法というわけでもあるまい」


そう言うと、ダンバンは立ち上がる。


「何処へ行くのだ、ダンバン?」

「火を起こす準備をするぞ。向こうにちょうど良い薪があるから運ぶのを少し手伝ってくれないか?」


火を起こす……?

話の流れを読めぬまま、言われたとおりに薪を運ぶ。

火をつけるならとサモン・フレアを提案したが、

瞬間で灰になってしまうかもしれないと言われ止められてしまった。

そうして普通にダンバンが火をつけた時、ざばぁ、と再度水面の揺れる音が聞こえた。


「勇者リキ、トリプルゲットだもーーー!!!」


水面からはリキが、その左腕と右腕と口に大き目の魚が一匹ずつ。

勢いよくリキがそれを放り投げ、ダンバンがそれをキャッチした。


「__これは?」

「一緒に食べるんだもー!!」

「なにはともあれ、メシにしようぜ」


私の問いに、ダンバンもリキも同じように笑った。




***




焼き魚。

そういえば以前にリキがそんなことを言っていた。

なんでも、この場所で野営した夜にダンバンと食べたんだという。

あの時はすぐに眠ってしまったから詳しくは知らないが、リキの言うにはとても美味しいとも言う。

以前リキが話してくれた時は遠慮して断ったが、はてさて。


「火傷しないように気をつけるんだも!」

「大丈夫だ……ええと、どのくらい焼けばいいのだ?」

「リキは分かるか?」

「むむむ~……このくらいが一番良いと思うんだも!」

「では、頂くとしよう」


二人は既に食べ始めている。

落ちた腕の水中となると遠い方は毒素に満ちていた覚えがあるが、

どうやら二人の様子を見ているとその辺の心配は無用のようだ。

見様見真似で二人が食べている部位と同じところを食べてみる。すると……


「これは…………」


一口食べた瞬間、香ばしさと旨味が広がる。

柔らかい食感に舌は悦び、頬がついつい綻んでしまう。

離宮などで食べていたものほど上品とはとても言えないが、

それとはまったく別の、味以上の何かを含む美味しさがそこにはあった。

何故だろう。こうして一緒に食べていれば食べているほど、旨味が増しているような気がする。



「どうだも?」

「ああ……美味しい」

「よかったもー!」


返答を聞くなりリキは歓喜のノポンダンスを踊りだす。

行儀が良くない……とも思うが、そのような無粋な思考は今は捨て置こう。


「やはりここの魚は良いな」

「そうだも!大きい上にうまうまなんだも!!」

「リキの言う通りだな。本当に美味だ」

「それに、こうして三人で食べることができたのが嬉しいんだも!」


談笑の絶えない食事の中、リキの言葉に気づかされる。

リキがほっぺたが落ちるほど美味しいと言っていた焼き魚。

確かにその味はその言葉に違わぬものだった。

けれどそれ以上に。こうして一緒に笑って卓を囲んでいられるのが嬉しい。

だからこそ、この何の変哲も無い魚もこんなに美味しくて。

同じ時の中に居る、同じ輪の中に居るというのが……少し分かった気がした。




**




そうして気づいた頃には焼き魚は完食。

だいぶ身の多い魚であったことを考えると、どうやら私は相当夢中になって食してしまっていたらしい。

皇女らしくないといえばそうだが、今に限ってはそれも良いことなのかもしれない。


「美味しかったも?」

「ああ、とっても。ありがとう、リキ」

「どういたしましてなんだもー!」


そう言うとリキはまた上機嫌で踊り出す。

一緒に取った食事が相当楽しかったのだろうか。

でもその気持ちも、お陰でようやくはっきりと気づけた。


「それに、ダンバンも。ありがとう」

「答えは見えそうか?」

「ああ。少し、見えた気がする」

「それは良かった」

「すぐには上手く行かないかもしれない。
 だがそれでも……私なりに、なんとか殻を破ってみようと思う」

「頑張れ……いや、気負いすぎるなよ。
 それにまた行き詰ったらまた遠慮なく相談してくれ。お前が望むなら何度でも乗ってやるさ」

「頼もしいな。ではその際にはまた遠慮なく頼らせてもらうとしよう」


思い返してみればダンバンはリキが来た時に流れるように私を食事に誘ってくれた。

そして口にすら出さずにこういったことを教えてくれたものだから、つくづく粋な男だと思わされる。


「メリアちゃん、何かいいことあったも?
 さっきよりちょっと顔が柔らかくなってるも!」

「リキほどふわふわではないけれどな、ふふっ」

「今度はシュルクたちも誘ってみようぜ」

「それも良いな。きっとさぞかし賑やかになることであろう」


魚の味は喉を過ぎたのに、綻んだ気持ちはまだなくならない。それは私も二人も同じ。

そうだ。これが、これこそが共に同じ時を過ごせている証なのだと確信する。

例え今は上手く行かずとも……皆と打ち解ける時は、きっと、すぐそばに。



おしまい