机越し。
アミティが右手を伸ばしてくる。
こっちも左手を伸ばすと、ぎゅっと握りしめてくれた。
「シグの左手は大きいね」
そのまま握ったり離したり左右に動かしたり。楽しそうに手を動かす。
「あたし、やっぱりシグのこの手が好きだよ」
アミティはこの左手を気にしないで、いつも好きと言ってくれる。
……けど。
「冷たいけど大きくて、かっこよくて」
「……」
なんとなく、少しだけもやもやする気がした。
多分、左手ばっかり好きだと言われてるから。
もやっとした気持ちのままに左手を離してみる。
「あっ、」
そして代わりに右手を出す。
「アミティ」
「……シグ?」
「こっちは、好き?」
アミティからしたらあまりに突拍子も無くて意図も分からない変な質問。
でもアミティは、
「もちろんだよ」
と快く笑うと手を伸ばして、左手のときと同じようにぎゅっと握りしめてくれた。
指を絡ませると、指と指の間に挟まったアミティの指がこすれてくすぐったい。
「えへへ、こっちの手はとっても温かいね」
「アミティこそ」
「もしかして、寂しかった?」
「何のこと?」
「シグの右手。あたし、最近左手ばっかり触れてたと思うから」
その言葉で、もやもやしていた何かがすっと抜けていった気がした。
右手でも、左手と同じようにアミティに触れられたかった。それだけだったんだ。
言葉にすると、凄く単純な欲求だ。
「……そうなんだと思う」
「じゃあ寂しかった分、今はいっぱいこっちを握ってあげるね」
「ふふっ、ありがと」
にぎにぎ、ぎゅーっと。指を曲げたり伸ばしたり。
心地良いくすぐったさと手の温かさで一緒にまどろみながら、穏やかな時間が過ぎていった。
おしまい
↓蛇足(ドラッグすると見えます)
アミさんは気にせずシグの左手にくっついたりするだろうしシグもそれを嬉しく思うだろうけど、
だからこそ時々は右手にも同じようにしてもらいたい、なんて考えてたら良いと思うのです。
自分が魔物でも魔物じゃなくても関係なく彼女が愛してくれることを確かめたい、
そんな気持ちの無意識の表れかもしれません。