明け空の展望台

ヤフブロより移転。ぷよの二次創作ゲームを作る者です。よろしくお願いいたします。

こころの音 シグアミ


「シグの左手って大きくて、枕にちょうど良さそうだよね」


きっかけはアミティの何気ない一言だった。ベッドの枕と左手を交互に見ながら何気なく呟いた一言。


「枕?」

「ほら、あたしの頭の大きさとほとんど同じな気がするし」

「そうかもしれないけど……やめたほうがいいと思う」


この赤い左手は大きいだけならまだしも、硬いし爪は鋭いしで、

枕に使うには向いてないと思ったから止めてはみたけれど。


「そう?」

「枕と違って硬いから多分気持ちよくない」

「硬いからって気持ちよくないとは限らないでしょ?
 ほら、腕枕なんて枕なのに硬いし。」

「でも、手だと硬いだけじゃなくて爪があるから危ないよ?」

「シグだから大丈夫だよ!」


なんて根拠のない自信と好奇心に輝く目に押されてしまい。


「うぅ……それじゃあ一晩だけ」

「ありがとー!」


と、腕枕ならぬ左手まくらをすることになってしまった。






「こう?」

「そんな感じ!」


ベッドに寝転んで左手を開き、手の平のあたりにアミティの頭を乗せる。

アミティの推測どおり、頭は左手にすっぽりとちょうどよく入っておさまった。

でもアミティの様子は頭をもぞもぞと動かしているようで、なんだか落ち着きがない。

さすがにこの状態で眠るのは難しいようだ。


「気持ちいいけど……硬いかも」

「やっぱり」

「シグに何かしてもらえれば眠くなるのかな?」

「何か……?」


試しに左手でそのままアミティの頭を猫みたいにわしゃわしゃと撫でてみる。

そうするとアミティは目を閉じて「んっ」と気持ち良さそうな声を漏らして受け入れてくれてるけど、

暫く続けても眠くなる様子は無い。眠気のほうの気持ちよさではないらしい。


「うぅーん……」


何か他にできることは、と考えているうちにアミティの頭は左手からするするすり抜け、

気づいた頃にはすぐ傍、胸元まで移動していた。


「こっちの方がいいかも」

「枕になるものはないけど」

「いーの。ここなら暖かくて気持ちいいから」


そんなことを言いながらすりすりと頭を胸元に擦りつけてくる。くすぐったくて気持ちいい。

可愛いけど。すごく可愛いけど、ちょっと困る。だって。


「ふふっ。ここならシグの心臓の音、いっぱい聴こえるね」


思っていることと全く同じことをアミティが呟く。

困った、そう口に出されるともう意識を逸らすことすらままならない。

どきどき、どきどき。どんどん心臓の動きが加速してしまう。

こころの音までアミティに聴こえちゃいそうだ。


「アミティ、」

「どうしたの?」


一方アミティはこっちの葛藤なんか気づくこともなくきょとんとしている。

おまけにこの位置だと話しかけるだけで上目遣い。

だめだよ。そんな目で見られたら、恥ずかしいからやめて、なんて言えない。

もう、髪の先まで真っ赤になっちゃいそう。


「……ずるい」

「ひゃっ!?」


ぎゅっと抱きしめる。アミティの顔に胸元を押し付ける。こんな恥ずかしい顔、見られたくないから。

心拍は余計にアミティに聞こえやすくなっちゃうけど、もう知らない。

アミティが悪いんだ。アミティがこんな気持ちにしたんだから。

アミティのせいでこうなっちゃったんだよ。

そんな気持ちを押し付けるように、アミティに心の音を聴かせる。


「どきどき、してるね」

「アミティのせい」

「でも、とっても気持ちいいよ。
 シグに包まれて、温かくて、シグの心の音がいっぱい聞こえて。すっごく幸せな気持ちになっちゃうの。」


甘えるかのように、もう一回、ぐりぐりと頭を胸元に擦りつけてくる。

とっても嬉しそうで、こっちも嬉しい。

でもそれ以上に恥ずかしくて、そんな混ざった気持ちが心をまた掻き乱す。


「ね、シグ。シグの顔、もう一回見せて?」

「やだ」


アミティからのお願いに、咄嗟に否定の言葉が口から飛んでいく。

だって、今こんな顔見られたら。

こんな状態でアミティと目を合わせちゃったら、どうにかなっちゃいそうだから。

それに、今の顔を見られたら負け。何が負けなのかは自分でもわからないけど、そんな気がしたから。


「どうして?」

「今は、だめ」

「……お願い」

「…………うぅ」


だめだ。否定しきれない。どうしちゃったんだろう。さっきからずっと、アミティに振り回されてばかりだ。


「……良いって言うまで、待って」

「うん」


結局自分から折れてしまった。もう頭が回らなくて、自分で何を言ってるかもわからない。

もう、なるようになっちゃえ。


「……もう、良い」


もう一度、アミティと目を合わせる。

今度のアミティはさっきと変わって、まるで風邪でも引いたみたいに顔から耳の先まで真っ赤に火照っていて。

でも幸せいっぱいの表情で、恥ずかしげににこっと笑顔を見せると、そっとまた胸元に顔をうずめた。


「真っ赤だね」

「アミティこそ」

「でもやっぱり、すっごく幸せ。毎日こうやって眠りたいくらいだよ」

「アミティばっかりはずるい。こっちはどきどきして逆に眠れなさそうなのに」

「あははっ、そうだね。じゃあ明日はあたしがシグのことぎゅってしてあげる」

「ほんとに?」

「ほんとだよ。約束」

「言ったなー。アミティの心の音、いっぱい聴いてやる」

「うん。あたしばっかりシグの気持ちを聴くのは不平等だもん。
 あたしのどきどき、いっぱいシグに聴かせてあげるね」


楽しみだ、なんて考えると同時に「ふぁぁ、」とアミティの欠伸の声。

そろそろ夢見時みたいだ。


「……おやすみ、アミティ」

「うん。おやすみなさい……シグも良い夢みてね」



心臓の音は、まだ静まりそうにない。

今日は眠れそうに無いから無理だ……なんて野暮な返答を隠しながら、アミティをぎゅっと抱きしめた。

眠れないぶん、アミティが二人ぶんの素敵な夢を見られますように。




おしまい