注意
・シグアミ付き合ってる
それは冷えた春の朝。登校中での出来事。
「ねぇねぇ、シグ?」
「うん?」
事の発端は少女の何気ない行動だった。
少年の右の手の平を、ぎゅっと柔らかくて暖かい感触が包む。
見ると、少女の手の平が少年の右の手を横から包んでいた。
「えへへっ」
「アミティ、これ……」
「あたしたち、恋人同士なんだしさ。その……ちょっとくらい、こういうことをしてみたいな、って」
恥ずかしそうにアミティは照れ笑いする。
「もしイヤだったら、離すけど……」
「嬉しいから、このままで」
「ありがと~!」
シグは繋いだ手の力が一段と強まったのを感じていた。
そんなに嬉しいのか、と内心で喜んでいると、アミティが「あ」と何かを思いついたように呟いた。
「そうだ、シグ。これって普通の手の繋ぎ方だよね?」
「普通って、どう普通?」
「なんというか、普通で普通の……」
シグがきょとんと首を傾げるのを見て、分からないなりにアミティは説明を試みる。
「あのね、こういう手の繋ぎ方とは別にね。
恋人のひとたちがする手の繋ぎ方があるって聞いたことがあるんだけど……」
「なるほど」とシグは呟くと、繋いだ手を一度離し、今度は指が絡まるような形で手を繋いだ。
「きゃっ、くすぐったいよ~…」
「こういうことか」
「これが…?」
「恋人つなぎって言うんだって。クラスの人が前言ってた」
「へぇ~、これが恋人繋ぎかぁ~……」
アミティは嬉しそうに、繋いだ手の握る力を何度もぎゅむぎゅむと強めたり、ぶんぶん振り回していた。
どうやら相当気に入ったらしい。
「あははっ、普通のつなぎ方よりもあたたかいし、指と指の間がこすれてくすぐったくて…気持ちいいね」
「うん。恋人つなぎって、こんなにあたたかいんだ」
「ねえ、これから手を繋ぐときはずっとこれにしよう?」
「そうしよう。それがいい」
「恋人のしるし、だね」
「恋人のしるし、か」
少し紅潮した表情で笑うアミティの笑顔には恥ずかしさ、照れくささはあったが、
しかしそれ以上に嬉しさが滲み出ていた。
それはシグも同じことだ。にへらと笑みを漏らしながら、「恋人……」と、嬉しげに何度もつぶやいていた。
やがて数分して落ち着いた頃、「そうだ、」と今度はシグが何か思いついたように言葉を零す。
「どうしたの?」
「こっちの手でも恋人つなぎしたい」
そう言って差し出したのは紅くて大きな左手。
「無理に、とは言わないけど」
「無理なことないよー!繋ごう!」
やや遠慮がちのシグだったがアミティはそんなことなどお構いなしにシグの左側に回り込み、
指を絡めようとした。しかし。
「うう~ん…こうかな?」
アミティが手をいっぱいに開いてようやく指を絡めることができたが、
シグの手はアミティが恋人つなぎで包み込むにはあまりに大きすぎたようだ。
包む、というよりはギリギリしがみついているような形に近い。
「アミティきつそう」
「そんなこと!……ちょっとあるかも」
「やっぱりこっちの手は難しいか……」
「シグの手、冷たいから恋人つなぎで暖めてあげられれば、と思ったんだけどな~…」
「冷たい?」
うんうん、とアミティは頷く。
「確かに体温が通ってないって言われると、そうかもしれない」
「体温……そっか、」
「でも気持ちだけでじゅうぶ
言い切る間も無く突如、ガバッと暖かい感触に柔らかな重みがシグの左腕全体を包む。
「繋げない手は、こうしちゃう!」
よろめきながら腕の方を見ると、アミティが左腕を抱きしめるように全身で包み込んでいた。
「どう、暖かいでしょ?あたしなりの恋人つなぎ!」
「……。」
予想もしなかったアミティの行動にシグはあっけらかんとした表情であったが、
やがて暖かな笑顔と共に、
「とっても暖かい。ありがと」
とお礼の言の葉を返した。
「アミティのからだ、やわらかくてぽかぽかだ」
「あたたかいでしょー。シグが冷たくて困ってるときはいつでもこうしてあげるからね!一年中!」
「ふふっ、それならこの手もずっと暖かくいられるね」
「その代わり…」
「かわりに?」
「夏の暑い日もシグの手で涼ませてくれる?」
「もちろん。いっぱいひんやりさせてあげる」
「やったー!」
陽の昇り始める通学路に二人の明るい声がこだまする。
繋げないなら繋げないなりの、からだいっぱいの恋人つなぎで、二人は学校へと向かっていった。
おしまい
付き合いたてでぎこちない初々しくオトメなアミさんも素敵だけど、
今回は心置きなくぐいぐいくっついて愛情表現をするアミさんを表現したかった、そんなシグアミです。
ここまで見てくださりありがとうございました!